はじめに

特許法第26条第4項には、「特許請求の範囲には、特許の保護を求める範囲を明細書に基づいて明確且つ簡潔に記載しなければならない。」と規定されている。ここで、特許請求の範囲は、明細書を根拠にしなければならない(特許請求の範囲は、明細書にサポートされなければならないともいう)とは、特許請求の範囲における各請求項に係わる技術案は、当業者が明細書に十分に開示された内容から直接に得られ、或いは、導きだせるものでなければならないという意味である。

上記規定により、請求項に係わる技術案は、合理的な保護範囲を有し、出願人又は発明者による技術的貢献と一致することが要求されており、出願人が、その技術的貢献よりも広い範囲の権利を保護しようとする場合、特許法第26条第4項違反となる。

実際の審査実務において、審査官は、請求項の保護範囲が広すぎると認定した場合、通常、審査意見通知書にて、特許請求の範囲が明細書にサポートされず( サポート要件欠如)、当業者は、明細書の実施例以外の、請求項にカバーされている技術案も、本発明の課題を解決でき、その技術的効果を実現できることを確定できない(或いは、当業者は、請求項にカバーされる全ての技術案が本発明の課題を解決でき、その技術的効果を実現できるとは限らないことを疑う理由がある)ため、請求項の保護範囲を限定せよ、というような審査意見を下す。

以下、具体例を挙げて、サポート要件違反の対応について、簡単に説明する。

事例

請求項1:

熱可塑性樹脂組成物であって、

......

滴下防止剤と、

リン難燃剤と、

......

ベーマイトと、

を含み、

 ......

14:1〜15:1の重量比の前記リン系難燃剤と前記ベーマイトとを含む熱可塑性樹脂組成物。

上記請求項について、審査官は、審査意見通知書にて、以下のような意見を指摘した。請求項1により、熱可塑性樹脂組成物には、ある程度の重量比のリン系難燃剤とベーマイトが含まれることが限定されたが、リン系難燃剤の具体的な選択が限定されていない。明細書には、リン系難燃剤として、ビスフェノールA二リン酸を用いる実施例が記載されている。よって、当業者は、すべての種類のリン難燃剤をベーマイトと組み合わせて、ジューシング現象なしで、優れた難燃性を有し、耐熱性および耐衝撃性を改善した熱可塑性樹脂を得ることができるとは限らないことを疑う理由がある。

上記審査意見から分かるように、審査官の注目点は、「当業者は、請求項にカバーされる全ての技術案が本発明の課題を解決でき、その技術的効果を実現できるとは限らないことを疑う理由がある」ということである。ここで、補正又は反論を行い、請求項1におけるリン系難燃剤により、本発明の課題を解決できることを証明できると、審査官に指摘されたサポート要件違反の問題を克服できる。

上記審査意見について、本願の担当弁理士は、発明を実施するための形態に記載された実施例と、発明の概要の部分に記載されたリン系難燃剤に関する具体的な開示範囲を詳しく分析した結果、確かに、審査官に指摘されたように、本願の実施例部分には、1種類のリン系難燃剤、即ちビスフェノールA二リン酸のみが開示されており、明細書に開示された最も広い範囲のビスフェノールA二リン酸は、式Iの有機リン系難燃剤である。また、明細書の記載により、その解決しようとする課題は、優れた難燃性を有し、熱可塑性樹脂の難燃性、耐熱性および耐衝撃性を改善するとともに、ジューシング現象を防止することである。

本件の担当弁理士は、上記審査意見通知書を応答した際に、リン系難燃剤に関する保護範囲を適切に限定するために、まず、リン系難燃剤を発明の概要の部分に開示された式Iの有機リン系難燃剤に限定した。そして、本願における実施例を用いて、本願には、リン系難燃剤として、ビスフェノールA二リン酸を用いる実施例が記載されていることを強調した。本発明のリン系難燃剤により、優れた難燃性を有し、難燃性、耐熱性および耐衝撃性を改善するとともに、ジューシング現象を防止できる熱可塑性樹脂を取得できる。そして、式Iのリン系難燃剤は、ビスフェノールA二リン酸と類似する主体構造を有しているため、その性質も、ビスフェノールA二リン酸と類似している。よって、当業者であれば、式Iのリン系難燃剤が本発明の課題を解決でき、その有益な技術的効果を実現できることを合理的に想到しうる。また、本発明において、その課題を解決するための主な技術的手段は、「約14:1〜約15:1の重量比のリン系難燃剤とベーマイトとを含む」ことである。明細書には、当該重量比範囲内でのリン系難燃剤とベーマイトとを含むことにより、優れた難燃性を有し、難燃性、耐熱性および耐衝撃性を改善するとともに、ジューシング現象を防止できる熱可塑性樹脂を提供できることが、記載されているので、リン系難燃剤とベーマイトとの重量比は、上記範囲内である場合、当業者は、その課題を解決して、有益な効果を実現するために、適切な式Iのリン系難燃剤を選択することを合理的に予期できる。

上記のように応答した後に、審査官に、補正及び反論意見が認められ、授権通知書が発行された。

まとめ

審査官にサポート要件違反の問題が指摘された場合、発明の概要の部分に開示された内容、具体的な実施例、発明の解決しようとする課題を総合的に分析して、課題を解決するための主な技術的手段を確定したうえで、実施例に基づいて反論する、或いは、発明の概要に記載される具体的な範囲により、適切に限定することで、応答することを考えられる。請求項の保護範囲を縮小させようとする場合、直接、実施例と同様な範囲まで限定することではなく、具体的な開示内容に応じて、なるべく比較的に広い範囲まで限定することを提案する。

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