誰が善意による先使用の抗弁を主張できるか

台湾商標法第36条第1項第3号によると、「他人の商標の登録出願日より前に、善意で同一又は類似の商標を同一又は類似の商品又は役務に使用
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台湾商標法第36条第1項第3号によると、「他人の商標の登録出願日より前に、善意で同一又は類似の商標を同一又は類似の商品又は役務に使用している」場合、他人の商標権の効力が及ばない。これは台湾商標法における「善意による先使用」の免責抗弁に関する規定である。この規定の文言はかなり簡略的なものであるが、この免責抗弁を主張できる者に制限はあるだろうか。そして、抗弁を主張する者が最初に善意による先使用をした者でなく、その後継者である場合、その抗弁は成立するだろうか。

2015年に台湾の司法院が主催したある知的財産討論会では、営業譲渡(即ち譲渡人がその資産と負債を丸ごと譲受人に移転すること)の場合、譲受人が営業譲渡を受けたとしても、善意による先使用の事実が中断したわけではないので、譲受人が善意による先使用の抗弁を主張できるという結論となった。しかし、営業譲渡でない(商標そのものの譲受人、被許諾者である)場合の後継者が善意による先使用の抗弁を主張できるか否かが問題となる。

そして、「被許諾者」が善意による先使用の抗弁を主張できるかどうかについて、台湾の知的財産及び商業裁判所が最近のある二審の民事判決(109年度民商上字第21号。2021年5月)でこの論題を論じ、否定の見解を示した。

この事件では、原告(商標権者)も被告も自動車の関連設備を販売する台湾の業者であった。そして、被告は2019年にある中国の会社(以下、A社と称する)と台湾でA社の中国商標「AUTEL」を使用してA社製品を販売できるとの契約を締結した。しかし、「AUTEL」は既に2014年2月に台湾で原告により商標登録されていたため、被告が台湾で「AUTEL」商標を表示するA社製品を販売したことを知った後、原告は民事訴訟を提起し、被告がその商標権を侵害したとして被告に侵害差止めなどを請求した。

一審における被告の主な抗弁は、原告の商標は、他人の商標を不法占有するものであるため、台湾商標法第30条第1項第11号の「他人の著名商標若しくは標章と同一又は類似し、関連する公衆に混同、誤認を生じさせるおそれがあるもの又は著名商標若しくは標章の識別力、信用又は名誉を損なうおそれがあるもの」に該当して取り消すべきであるというものであった。しかし、一審と二審の裁判所はいずれも、原告が確かに悪意で「AUTEL」商標を出願・登録したと指摘しつつ、被告がA社の「AUTEL」商標に商標法第30条第1項第11号が要請する著名性があることを証明していないと認定した。

そして、第二審で、被告は新たな抗弁として善意による先使用を主張した。二審判決によると、原告による「AUTEL」商標の出願以前からA社が「AUTEL」商標を使用してきた以上、善意による先使用の事実があり、その後A社から「AUTEL」商標の使用の許諾を受けた被告も善意による先使用の抗弁を主張できるということは、被告の論理であるように読み取れる。

だが、二審裁判所はこのような善意による先使用の抗弁をも受け入れていない。かいつまんで言えば、二審裁判所はその判決で、善意による先使用の抗弁が属地主義の制限を受け、その事実の発生地が台湾でなければならないという従来の実務上の見解を再び述べた上、下記の見解を示している。

先使用商標の継続使用を例外的に認め、商標権の効力が及ばないようにする商標法の規定は、登録主義を採用する際の衡平を図る措置として、先使用商標が既に市場に存在している事実を尊重し、登録商標(又は標章)と先に市場に使用された商標(又は標章)の衝突を避けることを目的としている。

善意の先使用者は、先に商標を使用した事実のみを以て抗弁することができるほか、その抗弁の存立は、善意の先使用者が他人の商標出願日以前から善意に基づいて継続使用してきた事実に依存する。無論、その先使用の事実は、その本来の営業から切り離せるものではなく、単独で許諾できる対象ではない。

善意による商標の先使用の事実には、商標権者に対抗できる法律上の利益及び財産的価値があり、後継者が引き継げる法律上の利益に属する。その法律上の利益が営業譲渡の方式のみで引き継ぐことができ、単独で譲渡できないことは、甚だ明白である。

二審裁判所は、上記の見解に基づき、被告がA社から許諾を受けた者に過ぎず、A社から営業譲渡を受けた者ではないため、善意による先使用の抗弁を主張できないと認定した。

ところで、善意による先使用を主張できる者の条件についての、もう一つの最近の台湾の知的財産及び商業裁判所の民事判決(108年度民商訴字第65号。2021年3月)も、留意すべきである。この判決は、サンドイッチ店の老舗の経営者とその親族の間で発生した商標を巡る紛争に関するものである。裁判所はこの判決で、善意による先使用が「先使用者が自らその先使用商標を創設した」ことを前提とせず、先使用者が他人による商標出願の出願日以前に、不正競争を目的とせずにその商標を使用した場合、善意による先使用の要件を満たすと指摘した。今後の商標権侵害事件の裁判でこの見解がさらに発展するかどうかは、注目に値する。

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